離婚協議書と公正証書の違いと特徴
離婚をするときには夫婦間で様々な取り決めを行うことになりますが、その取り決めを書面として残して置かないと後々トラブルになる可能性があります。
これから離婚を考えている方は、口約束ではなく取り決め内容を書類として作成することをお勧めします。
調停により離婚を成立させた場合には、裁判所の書記官が作成する「調停調書」がありますので、法的な効力がある書類を貰うことが出来ますが、「協議離婚」の場合にはそのような書類を自分たちで作成する必要があります。
協議、調停、裁判離婚の違いはこちらをご確認ください。
協議離婚の場合に作成する書類は「離婚協議書」と「公正証書」のどちらかを作成することになりますが、この2つの書類にはそれぞれにメリットとデメリットがあります。特徴をよく理解してどちらを作成するかを決めると良いでしょう。
離婚時に作成する書類である、離婚協議書と公正証書につて紹介していきたいと思います。
離婚協議書の特徴
離婚協議書とは、離婚時の話し合いで合意した内容を記載して残して置く書面のことを言います。
離婚協議書は決められた書式がある訳ではなく、夫婦の話し合いで合意できた内容を書面として残しておくものになります。
夫婦で自由に作成できる離婚協議書ですが、非常に大きな意味があり、約束が守られないときに優位な立場をとることができる場合があります。
離婚協議書は言ってしまえばただの紙ですが、離婚協議書に離婚時に話し合いで決めた内容を明記することで、当事者はこれを遵守する義務(遵守させる権利)を得ることになります。
ただし、相手が約束を守らないときであっても、直ちに財産や給料を差し押さえることができる訳ではありませんので、裁判所に訴えを提起して裁判所の判決を得る必要があるなどのデメリットもあります。
長い期間に渡って支払いを受ける養育費の取り決めがある場合、財産分与などをまだ受け取っていない場合などでは、より法的拘束力が強い公正証書を作成すると良い場合が有ります。
養育費の取り決めの必要なく、財産分与や慰謝料の清算をすでに終わらせている場合など、後になって約束事が守られないことが無いようなケースでは、比較的簡単に作成できる離婚協議書であってもデメリットが少ないと考えられます。
公正証書の特徴
公正証書とは、法律の専門家である公証人が法律にしたがって作成する公文書のことです。
そのため、高い証明力があり債務者が金銭債務の支払を怠ると、裁判所の判決などを待たないで直ちに強制執行手続き(裁判所が強制的に金銭等を回収する手続き)に移ることができます。
これは養育費の未払いなどにも当てはまりますので、養育費の取り決めを行った場合、財産分与や慰謝料の清算を終えていない場合などでは、大きな意味を持つことになります。
強制執行が可能な公正証書の効力は、相手に対して支払いの義務を強く意識させることにも役立ちますので、養育費などの未払いを避けることができる場合もあります。
公正証書を作成するには、離婚協議書を持って公証役場に行き、公証人と面談をし作成する必要があります。夫婦で公正証書の原案を確認し、問題がなければそのまま公正証書を作成してもらい最終確認後に捺印をして公正証書の完成になります。
このように公正証書の作成にはそれなりの時間が掛かるデメリットがありますが、後々のトラブルを防ぐ大きな効力がある書類になります。
公正証書を作成するメリット
・公文書になるため証拠としての価値が高い
公正証書で養育費の支払い金額や支払日について書かれていれば、その内容が夫婦間で離婚前に約束していたものと判断されます。そのため、もし約束した金額が支払われなかった場合、その金額の支払いを回収することができます。
・給料や預金を差し押さえる効力を持ている
公正証書には裁判の判決と同じ効力がありますので、支払いがされない場合には裁判所を通して給料や預金を差し押さえることが出来ます。
・公証人がチェックをするため誤りがない
公正証書は、内容を法律の専門家である公証人がチェックすることになります。そのため、夫婦のみで作る離婚協議書に比較して内容の確実性が高くなります。
公正証書の作成に掛かる費用
公正証書の作成には決められた費用が必要となり、目的の価格により作成費用が決まります。
公証役場は公的な機関になりますので、必要な手数料も比較的少額で済みますので経済的な負担は少なく作成が可能です。離婚時には公正証書を作成しておくことをお勧めします。
公正証書の作成に必要な手数料になります。
目的の価格 | 必要な手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 43000円に5000万円までごとに、13000円を加算 |
3億円を超え10億円以下 | 95000円に5000万円までごとに、11000円を加算 |
10億円を超える場合 | 249000円に5000万円までごとに、8000円を加算 |
離婚協議書に記載する項目と作成方法
離婚協議書には決められた書面がある訳ではありませんので、各個人が自由に作ることができるメリットがありますが、記入すべき項目が抜けてしまわないように注意する必要があります。
離婚協議書は夫婦間の取り決めを書面として残して置くものですので、まずは夫婦間での取り決めの内容を決めることから始めます。
夫婦間での取り決めが成立したら、取り決めた内容に漏れがないように書面を作成し、署名捺印をし夫婦がそれぞれが1通ずつ持つようにしましょう。
離婚する夫婦により取り決めの内容は異なりますが、通常は主に以下のような項目について取り決めを行うことが一般的です。
一般的に離婚協議書に記載する項目
・離婚に合意した旨の記載
・親権者(監護権者)の指定について
・養育費の支払い
・財産分与について
・慰謝料について
・子供との面接交流について
・年金分割について
・公正証書にするか否か
・清算条項について
離婚に合意した旨の記載
夫婦が離婚について合意した旨を記載する必要があります。
その際には、
・離婚届の提出日
・離婚届けを役所に提出する人
を記載することで、離婚届けの提出までがスムーズに行くでしょう。
親権者(監護権者)の指定について
離婚協議書に、子どもの名前を記載します。
また、子どもの名前の前に、「長男」「長女」「次男」「次女」等記載していきます。
場合によっては、養育方針などを記載することもあります。
養育費の支払い
養育費とは、子どもを育てるのに必要な費用のことをいいます。
養育費には、衣食住に必要な経費や教育費、医療費、最低限度の文化費、娯楽費、交通費など、子どもが自立するまでにかかるすべての費用が含まれます。
離婚協議書には、
・そもそも養育費を支払うか否か
・支払う場合には、その金額
・養育費を支払う期間(子どもが何歳になるまでなど)
・支払い方法(短期間に集中してまとまった金額を受け取るか、1回に受け取る金額は少なくても長期に渡って支払うか)
などを記載するようにしましょう。
財産分与について
財産分与とは、婚姻生活において、夫婦が協力して増やした財産や維持した財産を清算し、夫婦それぞれの個人財産に分けることをいいます。
離婚協議書には、
・財産分与の対象となる財産
・現金や不動産など財産分与として譲り渡すもを具体的に記載
・財産分与の支払いをする期限
・支払い方法(一回払いか分割、現金か振込など)
などを記載します。
慰謝料について
慰謝料とは、精神的苦痛を受けた場合に、苦痛を与えた側から受けた側に対して支払われる費用をいいます。
離婚原因によっては、慰謝料を請求することが出来る場合があります。
(浮気などの不貞行為やDVを受けていた場合には、慰謝料が認められる可能性は高いと考えられます)
・慰謝料を支払うかの記載
・支払う場合はその金額を記載
・支払期日の記載
・支払い方法(一回払いか分割、現金か振込など)
などを記載します。
子どもとの面接交渉について
面会交流とは、離婚や別居で子どもと離れて暮らす父親や母親が、定期的に子どもと会って交流することをいいます。
離婚協議書には、
・面会交流を認める頻度(月1回の頻度や年2回の1泊程度の宿泊等)
・面会交流の日時
・1回あたりの面会の時間
・面会交流を実施する方法の取り決め
などを記載します。
親権を持たない親も子どもの親に変わりありませんので、子どもと面会をする権利があり特別な事情がある場合を除き面会を認めないことは出来ません。
年金分割について
年金分割とは、結婚している期間に支払った保険料は夫婦が共同で納めたものとみなして、将来の年金額を計算するというものになります。 厚生年金と旧共済年金が対象になり(国民年金は夫婦ではなく個人で加入するものであるため分割は出来ません)、例えば夫の扶養に入っている場合には、夫の支払った年金の最大で半分までを、妻が支払ったものとして将来受け取ることが出来ます。
公正証書にするか否か
公正証書とは、法律の専門家である公証人が法律にしたがって作成する公文書のことです。 公正証書は高い証明力があり、養育費などの支払を怠ると、裁判所の判決などを待たないで、直ちに強制執行手続きに移ることができます。 離婚協議書を公正証書にする場合は、離婚協議書に強制執行について記載することにより相手が金銭債務を履行しないときは、財産を差し押さえる強制執行が可能となります。
清算条項について
清算事項とは、離婚などの際に決定された請求権以外の支払い義務が、お互いに一切生じないことを確認する文言のことです。 つまり、「離婚協議書に書かれていないものは一切払いません」という宣言をお互いが認める一文として記載します。
離婚協議書は夫婦で作成して、署名と捺印があれば効力がありますが、法的なアドバイスを頂きながら弁護士とともに作成することも可能です。
夫婦の話し合いが進まない場合には、離婚条件に関する交渉を弁護士に依頼することもできます。
相手が話し合いに応じない場合や一方的な主張をしてくる場合などでは、弁護士が交渉を行うことでスムーズに進むことも少なくありません。自分一人では自身がない時には、弁護士に相談してみると良いでしょう。
離婚協議書と公正証書のどちらが良い?
離婚協議書は夫婦で作成できる手軽さが特徴となりますが、公正証書と違い法的な効力が弱いデメリットがあります。
親権については、離婚届けに親権者を記入して提出すれば正式に決まりますので、後々トラブルになる可能性は低いと考えられますが、財産分与や養育費など金銭に関するトラブルは多く発生しています。
慰謝料や財産分与の場合には、取り決めをし既に清算が終わっている場合であっても、後々相手が不満に感じ裁判を起こす可能性も考えられます。また、養育費や年金の分割は長い期間に渡って受け取るものであるため、未払いになる可能性が高いお金であると言えるでしょう。
そのため、慰謝料や財産分与をそれなりの金額受け取った場合や、養育費や年金の分与を受け取る場合には、法的効力の強い公正証書を作成することをお勧めします。その逆で、慰謝料や養育費を受け取っていない場合や少額の場合、養育費も受け取らない場合には手軽に作成できる離婚協議書でも問題が起こらない場合もあります。
口頭での約束だけで書面として残さない人も居るようですが、トラブルを事前に防ぐためにも、最低でも離婚協議書は作成する必要があるでしょう。